彼が虚勢をはる理由
夏野君は席に座るが、ニヤニヤ笑いは止まらない。
……嫌な予感がする。
「で、何が良かったの?」
うわ、やっぱりそうきた。
照れくさいし、聞かれたくないんだけど。っていうか、私自身の口から話せる気がしない。
「う~、……内緒です!」
「あっそ」
喰い付きが良かった割には、夏野君はアッサリと引き下がる。
"内緒"とか"言いたくない"というと、どんなに興味を持っているようでもアッサリと引き下がるのは、夏野君の大きな特徴でもあった。
――きっとたぶん、それにも理由がある。
「あ、あとソレ」
夏野君が再び声をかけてきたので、私は振り返る。
「そういうの、何て言うの? 簪ってヤツ? 蝶の飾りが付いてるの。それ、似合ってるよ」
「あ、……ありがと」
夏野君に簪に気付いてもらえるとか、まして簪を褒めてもらえるとは思ってなかったから、かなり嬉しかったし、照れくさかった。
……あーあ、今の私、たぶん顔が真っ赤だ。何だか暑くなってきたし。無理、ちょっと夏野君を直視するなんて出来ない。
夏野君から顔を隠したくて下を向いた私の後頭部で、簪の蝶がシャランと揺れたのが分かった。
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