彼が虚勢をはる理由
に。
「そうか、それは良かったじゃん!」
「おめでとう、舞子。補欠でも凄い事だよ」
舞子から「秋の大会の選抜に入った」という朗報を聞いたのは、九月に入って二週目の事だった。
本当は夏休みの末に決まったらしいんだけど、舞子は補欠だったらしく、私やハルに言おうかどうか悩んでいたんだって。
「ありがとう、ハルも香苗も。……ただね、喜んでばかりもいられないの」
「え、どういう事?」
続く舞子の話によると、秋の大会の選抜が決まって以降、選抜に入った一・二年生のテニスのラケットが盗難されるという被害が続出しているらしい。
最初はただの紛失騒ぎかと思われていたが、被害があまりにも続出するので、テニス部の部長と顧問は困っているそうだ。
そしてついに、被害は補欠メンバーにまで及び、舞子も昨日、テニスラケットを盗まれたらしい。
昨日、部活を終えた舞子は、他の部員達と一緒にラケットを一時的に部室のロッカーに入れて嗅ぎをかけ、そのロッカーの鍵を三年の先輩に預けた。
その後、校庭の整備を他の部の部員達と手分けして行い、それが終わってから部室に戻ると、鍵をかけた筈のロッカーにしまったラケットが、一本残らず失くなっていたらしい。
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