彼が虚勢をはる理由





私は夏野君の言った意味が分からなくて、思わず聞き返した。


「知るかよ、そんなの。俺は女子テニス部の部員じゃないんだし」

「まぁ……、そうだよね」


夏野君の言う事はもっともだ。
実際、部外者である私もハルも、全く見当がつかない状態なんだし。


「夏野~」


夏野君が他の子から声をかけられたが、夏野君はいつもどおり、一回目の声かけはシカトする。
ぱっと見は凄く性格が悪そうな行動だけど、それにもきっと夏野君なりの理由があるんだと、私は勝手に思っている。


「夏野~?」

「何? 呼んだ?」


ほら、二回目以降は、ちゃんと反応してるんだし。


「夏野さ、保健のノート、提出した? 雪崎が無いって騒いでる」

「マジで? ちゃんと提出したんだけどなぁ。あんがとな」


雪崎というのは、ウチのクラスを教えてる、保健担当の先生。
どうやら、提出した筈の夏野君の保健のノートが、雪崎先生の手元に届いてないらしい。


「しかし、夏野も性格悪いよな~。わざわざシカトしてこなくても良いだろ」


そんな声が聞こえた気がして、私はキョロキョロとクラス中を見渡した。
さっき夏野君に保健のノートの連絡をくれた子が、教室の入り口に立っていた。





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