彼が虚勢をはる理由
そのまま斜め前の席を見ると、夏野君は何処かに行ってしまっていた。
こういう時は本当に遭遇したくないから、少し有り難い。
「ハルも舞子も、本当にありがと」
「何言ってんの、香苗。夏野君に関しては、香苗の言う事が正しいんじゃん」
「本当だよね。夏野君の日頃の行いの見せ掛けに騙されずに、香苗が本当の理由を知ろうとしたからこその発言だったもん」
ハルと舞子は色々とからかってきつつも、こうやって私を心配して、応援してくれている。
前からその事は知っていたつもりだけど、その事を改めて痛感した。
「…しかし、夏野君の言いぐさも酷かったね~」
「香苗がわざわざ庇ってくれたのに、御礼も言わずにどっか行っちゃったし」
「……いや、それは良いよ。顔を合わせても、意味無く照れくさいだけだし」
私がそう言うと、ハルと舞子が私の顔を覗き込んできた。
私の顔がみるみる赤くなっていくのが、自分でもよく分かる。
「全くもう~、香苗は照れ屋さんなんだから」
「真っ赤になっちゃって、可愛いなぁ~もう」
ニヤニヤしてる、ハルと舞子。
……おちょくられてる。完璧におちょくられてるだけじゃん!
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