彼が虚勢をはる理由
「しかし、よく事実が分かったね。その先輩、自首でもしたの?」
ハルが首を捻る。自首って、警察に出頭するんじゃないんだから。
舞子が、「あ、それは」と付け加えた。
「夏野君が捕まえたんだって。しかも先輩がラケットを盗んでいる時に、現行犯で」
「は!? 夏野君が? 見張ってでもいたの?」
ハルが驚いた声を上げる。
私は舞子の言葉を聞いた瞬間に、私の中の小さな疑問が二つ、同時に解けた。
まず、ライティングの授業の前に感じた、小さな違和感の正体。それは夏野君が教室に戻ってきていないという事実だった。実際、夏野君は未だに教室に戻ってきていない。教室を出る前に準備したのか、斜め前の机の上には、ライティングのノートが広げられっ放しだ。
次に、「裏では何を考えて、何を言ってるか分かんないのに」という台詞。これ、夏野君が前に言ってた言葉だ。
「さぁ、そこまでは分かんないけど…」
「だから夏野君、教室に戻ってこなかったんだね。事情聴取でも受けてるのかな」
事情聴取って……。普通の言葉ではあるけど、そろそろ私はハルに突っ込みたい。
「ハル……。自首とか事情聴取とか、何か警察っぽいよ。何、刑事物にでもハマってるの?」
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