彼が虚勢をはる理由





「そのまさかです」

「マジで!? 面白っ!」


夏野君は爆笑してるけど、全くその通りで、私は言い返す事は出来ない。
夏野君は爆笑しすぎで出た涙を拭っている。幾ら何でも笑いすぎじゃない?


「あ、そういえば。ラケットの、どうなったの?」


私は女子テニス部の騒動の詳細が知りたくて、夏野君に尋ねた。


「ラケット?」

「ほら、女子テニス部のラケットの盗難騒ぎ。夏野君、それで呼び出されてたんじゃないの? ハルなんて、"事情聴取"って言ってたよ」

「ああ、アレか」


ハルの"事情聴取"には全く突っ込まず、しかもかなり長時間呼び出された筈にも関わらず、夏野君はアッサリと、"アレ"と表現した。
誰かを手伝う為に遅刻を繰り返し、誰かを庇う為に殴り合いを繰り返してただろう夏野君には、これくらいはどうって事は無いのかもしれない。


「太田から少しは話聞いた?」

「盗難騒ぎの動機とか、そういうのは聞いたよ」

「じゃあ、それだけだよ。俺が道場から戻ってくる時に部室棟の前をたまたま通りかかって、昼休みで練習してないのに女子テニスの部室のドアが少し開いてたから、ラケット失くなってるし物騒だと思って、中を確認しただけ」





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