彼が虚勢をはる理由





「そのまんまの意味だよ。人が口先だけでどんなに良い事を言ってても、裏では何を考えてるか分かんないって事。口で褒めてくれたって、裏では何を思ってるか分かんないし、こっちにはそれを知る方法も操る方法も無いじゃん」


苦々しそうに言う夏野君には、きっと嫌な思い出があるんだろうなと思う。
けど私には、それを追及する権利は無いだろうし、聞いたところでまた夏野君に嫌な思いをさせるだけだろう。
そんな嫌な思いをさせてまで、私は夏野君に聞きたくない。


「今回の女子テニス部の事件が、良い例じゃん。ラケットを盗んでいたっていう先輩、きっと太田達にはいつもどおり振舞ってたんだと思うよ。少なくとも、太田は信頼しきってたみたいだから」


夏野君の言葉に、事件の真相を知って、ショックを受けていた舞子を思い出す。

自分が怪我してる間に秋の大会の補欠を奪い取られて、とてもムカつく後輩。
表立ってはいつものように優しく接している後輩達に、裏ではその恨みを晴らすべくラケットを盗んで回る。
ラケットを盗んでいた先輩は、どういう心境だったんだろう? 裏でラケットを盗まれていて、裏切られていた舞子達は?




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