彼が虚勢をはる理由
「可哀想だよなー、太田も他の被害者達も。信じて尊敬していた先輩に、ラケット盗まれて裏切られて。女子テニス部、マジ怖えぇな。そんなんじゃ、言葉だけじゃなくて、行動すらも信用出来ないもんな。心が伴ってないんだもん」
「それは…」
「可哀想」という言葉はちょっと違う気もしたけど、私には何だか反論出来なかった。
心が伴ってない行動。
それなら、何を信じて、何を疑えば良いの?
「…さてと、俺は星崎の質問には答えたよ。もう帰って良いよね」
夏野君が鞄を担ぎ直して、私に再び捕まりたくない為か、速足で教室を出て行こうとする。
そんな夏野君にボーッと見とれていた私は、慌てて追いかけて、教室の扉を開けて、ちょうど出て行こうとする夏野君の腕を、後ろから掴んだ。
それが、どういう理由で、どんな意味を持つのか、考えもせずに。
「何なの? 星崎、まだ俺に何かあんの?」
振り返った夏野君が、私の顔を覗き込む。
私の顔が少し熱くなった気がしたけど、それを見たのかニヤニヤし出した夏野君の方が、もっと気になった。
“ニヤニヤしててもイケメンだなぁ”とか、そんなノンキな事を考えている場合じゃなかった。
――気付いたら私の背中は壁に押し付けられて、目の前には夏野君がいた。
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