彼が虚勢をはる理由





「どうせ星崎は、今の状態でも何とも思わないんだろ? 俺の行動に心が伴ってないからな。それとも、偽りでも形だけでもドキドキする環境を作って、それを楽しんでる? 壁ドンしてくれるなら、相手は誰でも良い?」


……それは悲しい。
そんな事は。

私と夏野君との距離は、あと二センチ。
少なくとも今、私の心はうるさい。


「そんな事は無いよ! 私今、凄く緊張してる!」


夏野君が少し離れた。そのまま触れたかった気もするけど。
夏野君の顔から、ニヤニヤ笑いが消えている。


「緊張してる?」


私は強く頷く。


「誰でも良いとか、そんな事は思ってない! 夏野君は、夏野君以外の何者でもない! 私は夏野君が好きだから、凄く緊張してるしドキドキしてる!!」


夏野君の顔が、本当に間の抜けた物になった。
それを見て私は、「とんでもない事を言ってしまったなぁ」と改めて実感する。
さっき腕を咄嗟に掴んでしまった理由も、我ながらようやく理解出来た。…本当に、行って欲しくなかっただけなんだ。

顔がドンドン熱くなった私は、夏野君の返事が怖く、恥ずかしさで夏野君を見る事も出来なくて、思わず隙間から教室を飛び出してきてしまった。





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