彼が虚勢をはる理由





「……あ~」


夏野君の反応が再び無くなる。
そんなに難しい問題じゃないと思うし、夏野君はそこまで現代文が苦手というわけではない。
それにしては、考え込む時間が長すぎない?

夏野君がクラス中の注目を集めてからたっぷり三十秒後、ようやく答えを言った。
自分の答えを確認すると、夏野君と同じ答えを出していた。


「何だ。あまりにも遅いから、つい寝てるのかと思ったよ。けど、正解だ」


現代文の先生の返事もなかなか酷いと思いつつ、私は自分の答えに丸をつける。
そのままの調子で、現代文の答え合わせは続いた。


こんな感じで最近、夏野君は返事をしてくれない事が多い。
前から夏野君は、一回目にかけられた声は無視されるのが御約束だったけど、最近は二回も三回も声をかけても、気付いてもらえない事が多い。
最初はあんな事があったから、私だけがシカトされてるのかとも思ったけど、どうやらそういうわけでも無いらしい。

しかも前みたく、“無視してる”という事ではなさそうだ。
夏野君は明らかに、夏野君を呼ぶ声に“気付いてない”。
それは夏野君に声を何回もかけて、夏野君がようやく気付いて、辺りをキョロキョロと見回してるという行動からも伺える。





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