ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ

夕方の放課後。

昼間、提出し忘れていた宿題を届けに、 私は職員室に向かった。

ノックをし、扉を開けると、中はガラン としている。

その日に限って、職員室には先生達の姿 がなかった。高校に出向いたり、部活の 顧問をしていたりと、放課後の先生達は 忙しいらしい。

私の入室に気付いていないのか、静かな 職員室内には、2つの声が響いている。

海君と、海君のクラスの担任のものだっ た。

「先生までそんなこと言うなんて、許せ ない!」

なぜだか、海君はひどく腹を立ててい た。深刻そうな雰囲気。

担任はオロオロし、興奮気味の海君をな だめている。

「海瀬、悪かった……。先生は、怒らせ るつもりで言ってるんじゃないんだ。冷 静になってくれ。

お前は、最近の成績もグンと良くなって るし、前ほど素行も悪くない。

今まで努力してきたんじゃないのか?な のに、それを台無しにしてほしくないん だよ。

特に、受験は戦いなんだ。

友達は選んだ方がいいと、先生は思う ぞ」

「担任だからって、なんで生徒の人間関 係にまで口出すんだよ……!

俺は、自分のしたいようにやるから!

勉強も、友達付き合いも、人に選ばれた くなんかない!」

怒鳴るように言い、海君は怒ったまま担 任に背を向けた。そのまま、私のいる出 入り口まで早足でやってくる。

残された海君の担任は、動揺した様子で 海君の背中を見ていた。


「おつかれ! また後でな」

出入口ですれ違いざま、海君は普段通り の口調で私にそう言い、颯爽と職員室を 出ていった。

夏以来、私の家で海君と夕食を作るのが 日課になっていた。もちろん、勉強がメ インなのだけど、時々、料理の方がメイ ンになってしまうこともある。

私はすっかり、海君の存在に甘えてし まっている。

それを、悪い形で知らせて来たのは、意 外な人だった。

海君が出ていった後、私は、自分の担任 の机に宿題のノートを置いて出ていこう とした。

すると、「君、ちょっとこっちへ来なさ い」

海君の担任の先生に呼び止められた。
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