ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ
「あー、私ね、子供できちゃったのよ。 もちろん、お父さんとの子供よ!」
「え?」
体中の血という血が、全て凍りつくよう な感覚だった。
「ウソ。だって、お母さん、子供はもう 産みたくないって言ってたよね!?」
「うん、言ったわね。高齢出産は不安だ しね。アンタを産んだ時よりはるかに大 変だと思う。
でも、やっぱり、お父さんとちゃんと家 族になりたいのよ。だから、産むことに した」
「だから、私はここじゃない他のところ で一人で暮らせって言うの?」
「そうよ。この子が産まれたら、アンタ 今よりここに居づらくなるでしょ?」
「うん……」
ずっと居づらかったよ。居心地いいなん て思ったことなかった。お母さんがいる からここに居ようと頑張ってたんだよ。 それだけだった。
でももう、それすら必要ないんだ ね……。お母さんは、私がいなくてもい いんだ。
目の前には、愛しそうにお腹をなでる女 性。世界の誰もが和むこの構図を、心底 ぶち壊したいと願うのは世の中で私一人 だけだろう。
お母さんは、もう、紛れもなくお腹の子 の母親で、私はその子の姉になる。
――冗談じゃない。ふざけんな。
あの男が……道行く若い女の子をいやら しい目でしか見られないような奴が父親 になれるの?なれるわけない。