【完】そろり、そろり、恋、そろり
テーブルを囲って4人向かい合って席についた。きっとこれから説明してくれるんだろう。


「大山さん、その様子じゃ昨日どうやって帰ったかも覚えてないですよね?」


あーあ、私知らない。と、付け加えながら小川はニコニコと笑っている。楽しんでいることが明白だ。ただ小川の言葉に、何も答えられない俺がいた。


「……昨日?」


俺がいくら考えても思い出せなかったことが関係しているんだろうか。誰かに助けを求めたくて隣の麻里さんへと視線を移した。


「えっとね、昨日拓斗君は美沙さんに肩を借りた状態で帰ってきたの。玄関のところで仕事帰りの私と出くわして、私たちは昨日すでに挨拶を交わしていたの。そして今日の披露宴で礼央を迎えに来た彼女を見て、3人が同じ職場だって知ったの」


「ちなみに、今日式を挙げた守と俺とまりは中高の同級生で、ついでに6年間クラスが一緒だったんだよ。久しぶりに会って、麻里に美沙を紹介しようとして発覚したわけ」


なんだ、山下さんと麻里さんは最初から繋がっていたのか。俺らが出会うずっと前から。


でも、ちょっと待てよ。麻里さんが友人の披露宴だって言っていたからてっきり女の人だと思っていたけど、今の話からすると


「結婚する友人って男の人だったの?」


麻里さんに答えを求めると、彼女はキョトンと不思議そうに首を傾けた。


「そうだよ。言わなかったっけ?」


「聞いてなかった……」


彼女の様子から、意図的に言わなかったわけじゃないのはよく分かった。けれど、事前に把握しておきたかったと思う。


昨日、もしくは今日の朝、ちゃんと話をできていれば……昨日の自分の行動を心から悔やんだ。


このちょっとのすれ違いも、原因を作ったのは俺だろう。俺がちゃんとしていれば、不安になることだってなかっただろうし、麻里さんに迷惑もかけなくて済んだはずなのに。





「飲み物のお替り持って来ますよ」


俺たちの微妙な空気を読んだのか、小川が明るくその重い雰囲気を断ち切ってくれた。

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