【完】そろり、そろり、恋、そろり
明日が始まる前に side:M
「……麻里さん、着いたよ」
肩を揺すられて、意識が浮上してきた。……眠ってしまっていたらしい。私を起こしてくれていたのは、もちろん拓斗君。目を開けると私を覗き込む彼の顔がすぐ傍にあった。
「ごめんね、運転してくれてたのに……」
乗せてもらっている身だというのに、本当に申し訳ない。そういえば、昨日は眠るのも遅かった上に、朝は早めに起きたからね。眠くなっても、当然かしれないと1人納得した。
「いいよ、気にしないで。可愛い寝顔も見れたし」
「……///」
まだボーっとしたままの私に、そんな恥ずかしいことをさらり言って、そっと頭を撫でられた。顔がカーッと熱くなり、赤く染まってしまっている事が、自分で容易に想像できた。彼の行動で、完全に目が冴えた。
「このまま家に来てくれる?」
離れていく掌を目で追っていると、拓斗君から提案があった。行く、と言ってしまいそうになって、自分の格好を思い出した。まだ披露宴に出席したままの服装だから、楽な格好に着替えたくなった。
「私の家でもいい?着替えたいから」
「それもそうだね。じゃあ、麻里さんのところにしよう」
2人では居たいけど、着替えもしたい、だからそう提案した。彼はうんと、快く受け入れてくれた。
「ただいま」
玄関を開け、中に入り電気を付けながら、つい癖で呟いてしまった。拓斗君も私のすぐ後から、同じように家の中へと入ってくる。引き出物とか、大きな荷物は拓斗君が持ってくれたお陰で、私は身軽な状態で帰宅した。
「適当にゆっくりしてて。シャワー浴びてくるから」
ハンドバックをソファの上に適当に投げやり、足早に浴室へと向かった。彼の返事も聞かぬままに行動を開始した。髪をアップにする事に慣れていないせいか、先程から頭皮が引っ張られるような感覚がして、髪を崩したくて仕方ない。