【完】そろり、そろり、恋、そろり

合っていたはずの目が逸らされたと思ったら、拓斗君は大きな、それはそれは大きなため息を吐いた。確かに、呆れられても仕方ないかもしれない。


「何、その可愛い理由」


そうだよね、呆れたよね……って、え、今可愛いと言った？予想していた言葉とはかけ離れた言葉に、驚きを隠せない。


「不安にさせてごめんね」


拓斗君はそっと私を引き寄せて、そっと抱きしめてくれた。壊れ物でも扱うかの様な仕草はくすぐったいくらい。


「情けなくて恥ずかしいけど、俺の話も聞いてくれる？ただ、このまま聞いて」


彼の腕の中に閉じ込められたまま、私はうんうんと何度も頷いた。


「俺はさ、完全に嫉妬してたよ。友達のところに行くと言った麻里さんを呼ぶ声は男の声だし、俺の事は君付けで呼ぶのに山下さんの事は礼央、礼央って「だって、それは……」


思わず顔をあげて喋り出そうとした私を、拓斗君は先程より強く抱きしめて、身動きが取れなくしてしまった。


「情けない顔してるから見ちゃダメ。それに、最後まで黙って聞いてて。礼央、礼央って呼びながら、俺の知らない2人の話を楽しそうにしてて、いつもより綺麗な格好で、いつも隠している部分まで晒して、男の人に囲まれていたんだなって考えて……とにかく、嫉妬ばかり。ね、格好悪いでしょ？」


早口で喋って、最後にはハハハと乾いた声で笑った。


これだけ接していれば、彼の心臓の音が良く聞こえてくる。いつもより早く打つ音に、彼も緊張しながら話してくれていると想像できて、なんか嬉しくなってきた。


もちろん、そんな気持ちにさせてごめんという気持ちもあるけれど、そう感じてくれていたという事実が嬉しい。だって、ちゃんと愛されているみたいじゃないか。嬉しいに決まっている。