【完】そろり、そろり、恋、そろり
「……はぁ」


ついため息が漏れてしまった。そのため息に、今度は苦笑が漏れる。


いつから人の幸せを、素直に喜べなくなったんだろう。なんだか、そんな自分が惨めに思えてきた。


要するに、結婚してないことに焦りを感じ始めている。周りに話しても、今時そんなに焦らなくてもいいと言われるだけ。けれど、そんな事を言う友人たちは結婚をしていなくても、ちゃんと彼氏がいる。そりゃあ、焦る必要ないよね、私と違って。


やばい、嬉しい知らせだったはずなのに、余計な事を考えてしまったせいで、気分が落ちてしまった。


今日は予定変更。……飲もう。


荷物をリビングに降ろし、缶ビールでも飲もうと冷蔵庫へと向かった。




――パタン


「……はぁ」


冷蔵庫のドアを開いてはみたものの、すぐに閉めてしまった。本日2度目の大きなため息。そりゃあ、ため息も吐きたくなる。冷蔵庫には缶ビールどころか、飲み物食べ物ほとんど見当たらない。今日はとことん空回りしている気がする。


どうしよう、飲むのも食べるのも諦めて寝る?いや、どうにかしたい。仕事でもお客様同士が揉めそうな場面があった。事なきを得たから良かったものの、非常に神経をすり減らす結果となった。……今日はどうしても飲みたい気分。


よし、と思い立って鍵をポケットへ押し込み、バックの中から財布と携帯を持ち、再び玄関から外へと出た。


スーパー?いや、今日は近くのコンビニでいいや、面倒だし。


さて行ってきますか。ついさっき昇ってきたばかりの階段を、とんとんとんと規則的なリズムで降りていった。


……夜は、まだ少し肌寒い。
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