【完】そろり、そろり、恋、そろり
始まる日常 side:M
また正式なプロポーズは改めてするから、と拓斗君は照れながら笑った。本当はもっとちゃんとしたところで、それなりの雰囲気でやりたかったのに、とも言っていた。
私は雰囲気なんて気にしないのに。きっと拓斗君の方が私よりも記念日とか気にするタイプなんだろうなと、少しだけ可笑しくなった。
正直、辛そうな彼を見ているのは私も辛かった。彼に言ったように、それを私に向ける事で、彼が楽になるのなら私も一緒に受け止めたいという気持ちは本当だ。
だから、彼がくれた言葉はすごく、すごく嬉しかった。
拓斗君に出会ってからは、結婚への焦りを感じなくなっていた。でもそれは結婚したくないとかではなくて、このままの時間でもいいや、変化していくのが恐い、そんな気持ちの方が強かっただけかもしれない。
“今”隣に在ってくれる拓斗君が、いつまでも傍に在るとは限らない。その事に気付かされたとき、ちゃんと前を向いて歩かなきゃいけないと感じた。
心が折れそうになりながらも、必死に前を向いている拓斗君。拓斗君は“生きる”ということをこんなにも真剣に考えている。男の人としてもだけど、命あるものとして、尊敬する。
そんな彼とこれから先も生きていきたい。彼と家庭を築いていきたい。そう強く思った。
本人は格好悪いと言っていたけど、格好良すぎると思う。彼と比べて、自分を悲観してしまうほどに。
私なんかに拓斗君は勿体ないよ。弱気になってしまいそうだけど、私も後悔はしたくないから、自分に正直に応えた。