【完】そろり、そろり、恋、そろり



……さっきから違和感を覚えている。


きっと隣の彼も同じだろう。だって、どこまで行っても彼との別れ道は現れず、どこまでも一緒に歩いている。


いや、まさかね。ここまで来ると、もしかしてとありえない事を頭に浮かんだ。さすがに、そこまで偶然にってことはないと思う。だってこの辺りはアパートがたくさん並んでいる。私が住んでるところだって、A~C棟と3つに分かれているくらいだから。ご近所さんだったとしてもおかしくはない。にしても、方向が同じすぎはしないかい?


「……さっきから気になってるんですけど、ちなみに麻里さんの住まいはどれですか?」


同じ事を思っていたんだろうな、拓斗君は沢山並んでいるアパートを指差しながら訪ねてきた。


普通だったら今日出会ったばかりの人に家なんて教えない。けれど、この場合は仕方ないといか、流れ的に教えないといけない気がする。


「あれ」と、随分と見慣れた建物を指差した。


「……まじ?」


私の答えに彼は声を上げてピタリと足を止めてしまった。どうしたんだろう、と不思議に思い、追い越してしまった彼を振り向いて、私も足を止めた。


「まさかとは思ったけど……マジか…」


私の反応を他所に、何かぶつぶつと呟いている。こんなに動揺しているって事はもしかして……今度は私から尋ねる事にした。


「……拓斗君は?」


私の質問に、彼は片方の口角を上げて笑った。苦笑という言葉がぴったりかな。


「俺も同じです。あまりにも方向同じだから可笑しいなって思ったんですよ。一緒なら、そりゃそうですよね」


「……え?」


拓斗君は私と目が合うと、ハハハと笑って片手では頭を掻いている。
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