【完】そろり、そろり、恋、そろり
――ガタっ


やってられなくなって、とりあえず席を立った。ここから離れて今しなければいけない事も、探せばいくらでも見つかる。まずは、飲み物でも持ってこよう。2人の前に置いてあるグラスの中は、もうすぐ空になるところだった。


ついでに、お茶菓子代わりのデザートでも持ってくるか。その間に小川も落ち着いてくれるだろうし、2人もイチャイチャしなくなるだろう。甘いものが大好きな小川だ、目の前にそれがあれば爆笑から微笑みに変わってくれるだろう。


カチャカチャと音をたてながら、2人にお茶とコーヒーのお替りを準備して、冷蔵庫からは昨日買っておいた俺からしたら甘ったるいプリンと、甘さ控えめのティラミスをお盆に乗せてリビングへと戻った。


明らかにコンビニで買ってきました感が醸し出されているけれど、気にしない。そこまで気を使う相手じゃないと思ってるから。だからこそ、さっきもあんな相談をしたんだ。






「……落ち着いたみたいだな。はい、どうぞ」


――コトっ


リビングに戻ると予想通り、小川は少し落ち着いていた。刺激せずに放置するのが正解だったらしい。そして目の前に置かれた物に今度はキラキラと目を輝かせた。……これも正解。


「ちょっと妬ける」


「……は?」


妬けるなんてこの場に相応しくないことをボソリと呟いたのは、早速プリンを食べ始めた小川を複雑そうな顔で見つめている山下さん。


呆れた視線を送っていると、山下さんも俺の視線に気づいたらしくばっちりと目が合った。送られている視線の意味が分かったらしく、山下さんは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。そして小川には分からないように、音にならない声で、要するに口パクで悪いと呟いた。
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