【完】そろり、そろり、恋、そろり
店員の機転 side:T
選択を間違えたと後悔した。けれど、直後にやっぱり来てよかったと、考えをひっくり返した。
職場の先輩の結婚式の二次会、その幹事を任せられて打ち合わせをしようと同期3人とここにやってきた。飲んでしまうと話しが進まないからと、アルコール抜きで食事だけしようと職場近くのこの店にした。店に入り、感じる視線に後悔してしまった。
3人で行動するとだいたいこういう熱の篭った視線を送られることが度々ある。だから、あまり女性ばかりの店には普段は行かないけれど、初めて入ったこの店は店員も客も女性ばかり。
しまったなと思っていたところで、俺の思考は一旦停止した。
いらっしゃいませの言葉のあとに表れた女性に目を奪われた。顔が好みなことはもちろんのこと、俺達を前にしてもどこか冷めた目をしていた。顔は笑っていたけど、きっとあれは仕事用だろう。自惚れだと笑われるかも知れないけど、こんなにも興味を示されないことに、俺の方が強く興味を持った。
俺が固まっているうちに、同期が先に店員に答えてしまい、彼女と言葉を交わすチャンスはなくなってしまった。
ボーっとしている間に、淡々とシステムの説明をし、彼女は去っていってしまった。