【完】そろり、そろり、恋、そろり
待合室 side:M
「瀧本さん、瀧本麻里さん」
待合室に着き、椅子に座って待っていると、受付から名前を呼ばれた。
……痛っ!!急いで立ち上がろうとすると、ズキッと鋭い痛みが走った。ばかだ、何でここに来るはめになったのか、頭から抜けてしまっていた。
慌ててわきに置いていた松葉杖を手に取り、今度こそ立ち上がった。慣れないからか、まだゆっくりとしか歩く事が出来ない。左足は極力浮かすようにして、それが案外難しい。
申し訳ないなと思いながらも、身体は思い通りに動かないため、ゆっくりと時間をかけて受付へと向かう。
――
―――
何とか会計も終わり、拓斗君を待つために再び椅子へと戻る頃には、少しだけ松葉杖の使い方にも慣れてきていた。……よかった、これくらい使えるなら、なんとか生活は出来そうな気がする。
待合室で点いているテレビでは、時間が中途半端だからかニュースくらいしか流れていなかったが、することもないのでボーっと眺めていた。
10分くらい経過した頃、玄関の方から近づいてくる足音に気づいた。ふと顔をあげると、拓斗君がこちらに向かっていたらしく、いつの間にかすぐ側まで来ていた。
「麻里さん、ごめんなさい、お待たせしました」
急いで来てくれたんだろう、少しだけ息があがっている。その様子が、なんか嬉しくなった。
「そんなに急がなくて良かったのに。だけど……なんであっちから?」
てっきり、玄関とは反対側から来ると思っていたのに、実際に彼がやって来たのは玄関側だった。玄関のほうを指差しながら、疑問をぶつけた。
「あー、車を玄関前に移動させたんですよ。職員駐車場は少し歩かないといけないので、今の麻里さんにはきついなかと思って」
そんな事まで気遣ってくれていたんだ。私は彼に迷惑をかけている身だというのに。
「そっか……。わざわざ、ありがとう」
こんな風に何が大変かとかちゃんと分かって気遣えるところとか、仕事柄もあるんだろうけど流石だなって思う。私より若いのに、よっぽどしっかりしている。