【完】そろり、そろり、恋、そろり
食べ終わってからはのんびりと話をしてしまい、気付くと随分長居してしまっていた。


どうしてなのか、彼と過ごしていると時間があっという間に過ぎていく。


さすがにこれ以上お邪魔するわけにはいかないと、私は帰ることにした。


「ごめんね、長居しちゃって。折角の休日を私なんかのために使ってくれてありがとう。おかげで私は楽しかった」


昼頃から一緒に居て、すでに夕方で、貴重な休みをほぼ1日潰してしまったことになる。私は助かったし、嬉しかったけれど、申し訳なさがもちろんあった。


「そんな気にする必要ないですよ。希望休でもなかったし、どうせぐーたらに過ごす予定だったので、充実した1日になりましたよ」


彼は言葉の選択がすごく上手だと思う。言葉一つで私の心を軽くしてくれる。人には見せないようにしているけれど、実はマイナス思考な私。普段はうまく隠せているらしく、周囲からは心が強い人間だと思われている節がある。


それなのに、拓斗君は私のマイナスな気持ちに気付いているかのように言葉をくれる。
あーあ、だめだよそんなこと言っちゃ。私の気持ちが後戻りできなくなるじゃない。それでも……嬉しい。


「それならいいけど。じゃあ、私はそろそろ帰るね」


「はい、麻里さん痛みが落ち着いたからって、無茶しちゃダメですからね」


「分かってる」


……少し、おせっかいな面もあるらしい。何度も掛けられる言葉に、つい頬が緩む。そんなに念押ししなくても大丈夫なのに。


楽しい時間だったな、そんな気持ちになっていると目の前にいる拓斗君が急にそわそわし始めた。私から見ても明らかに挙動不振だ。
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