【完】そろり、そろり、恋、そろり
201号室、紡ぐ文字 side:T
静かに閉まった扉を、しばらくその場から動けずに眺めていた。
やっと……やっと、麻里さんとの連絡手段を手に入れることが出来た。1人だから構わないけれど、にやにやが止まらない。
連絡先くらいって言われるかもしれないけれど、俺にとっては結構ハードルの高いこと。興味のない女性から尋ねられることが多く、普段自分から連絡先を聞くことなんてないから、本当に緊張した。
スマホの画面を操作すると“瀧本麻里”の文字が表示される。それを見ると唯でさえだらしなくなっているというのに、更に頬が緩んでしまう。
ずっと玄関に居るわけにもいかないということで、スキップしたいくらいの気持ちのまま、ダイニングへと移動した。この距離じゃまずスキップなんて出来ないけど。
急に静かになり、ガランとしてしまった部屋を眺めて、少し寂しくなった。ついさっきまではここに麻里さんがいたんだよな。
この家に住み始めて何年も経つけれど、人を招きいれること自体数えるほどしかない。思い返してみると女性でここに入ったのは、後輩かつ先輩の彼女である小川くらい。1人暮らしを始めてから出来た歴代の彼女は、不思議と招きいれる事はしなかった。なんとなく自分のテリトリーを犯されるのがいやだったからだ。
それなのに、麻里さんがここに来ることには何の抵抗もなかった。それどころか、浮かれてしまっていたくらいだ。
ちゃんと出会ってから、長い時間は経過していないというのに、いつの間にか心を開いている事に今更ながら気付いた。麻里さんが傍に居てくれることを自然と受け入れている俺が確かに存在する。
先程まで麻里さんが座っていた椅子を正面から眺めながら、自分の想いを少しずつ整理していった。
――ピコンっ
ぐるぐると考えを巡らせていた所で鳴った音にハッとした。テーブルに置いていたスマホの画面が明るくなり、メッセージ受信の通知が表示されている。
「……あっ、麻里さんからだ」
麻里さんからだと分かった瞬間に身体が動いていた。慌ててロックを解除して、メッセージの内容を確認した。