【完】そろり、そろり、恋、そろり
何を食べようかと店内をうろうろしていると、俺達を見てこそこそと何か話している声があちこちから聞こえる。噂されたり、視線を感じるのはいつものことで、またかと軽く考えていた。


席に戻りいざ食事をしようとしていると、隣の女性グループがあからさまに俺たちの話をしているのに気づいた。大学生?いや、社会人?とにかく俺よりも若そうな少しギャル風の女性たちが隣の席には居た。大声で話したり、アルコールをがんがん飲んでいる様子が先程から見えていた。


正直、こういう子たちって苦手なんだけどな。極力、絡みたくはない。そう思うのに、なぜか俺たち、とくに俺はこういうタイプの子に絡まれたりしつこく声を掛けられたりすることが多い。


俺の後に続けてテーブルに戻ってきた池田、香坂と目が合うと、池田もチラリと隣のテーブルに視線を送り、そして分かりやすく苦笑している。


俺たちは打ち合わせが目的なんだ。もう少し、静かなところに行けばよかったと後悔してももう遅い。だから、隣のテーブルはないものと思って、食事のあとに打ち合わせをする事にした。


いや、これくらいの事、話さなくてもアイコンタクトで何となく分かる。こいつら2人と出会って10年近く経ち、毎日のように一緒に仕事をしているからな。


無言で目を合わせ、うんと首を縦に小さく振ると、箸に手を伸ばして目の前の料理を食べようとした。


「あのー、すみません」





……食べようとしただけで、実際には邪魔が入ってしまったけど。


あーあ、来てしまった。隣の女性グループの1人が立ち上がってこちらに来ているのはチラリと見えてはいた。無視していれば大丈夫かと思っていたが、そんなことはなかった。


堂々と話しかけてきた。このパターンは今までにも何度か経験がある。だから分かる、もの凄く面倒な事になりそうだと。


「何ですか?」


ここは作り笑顔も上手で、1番万人受けするタイプの池田に任せよう。


「あの、良かったら一緒に食事しながらお話ししませんか?すごくカッコいいねってみんなで話していたんですよ」


……どストレートにきたな。


「お誘いありがとう、でも、ごめんね。俺たちちょっと大事な話しなきゃいけないから」


「「えー!」」


池田がやんわりと断ってくれたのに、引き下がるどころか見ていただけの連中までもが騒ぎ始めた。


俺達も困るし、店側も困るだろうな、この状況。


ぎゃあぎゃあと騒いでいる女の子達をみて、どうしようかと困ってしまった。


このままでは打ち合わせも出来ないし、うまそうな料理が全て台無しになる。自分の事ばかりの彼女達に、少しずつイライラが募ってきた。


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