【完】そろり、そろり、恋、そろり
「俺……麻里さんのことが好きです。だから……俺の彼女になってもらえませんか?」
射抜くような視線で、はっきりと彼は告げる。
全く予想していなかった言葉に、思考が停止した。……彼は今何と言った?
信じられない言葉を聞いた気がする。だってそんなはずは無い、彼が私を好きだなんて。
「……」
何も言えないまま、彼から目も逸らせないまま、時間が経過する。彼の眼差しに今のは勘違いではなかったと感じさせられる。
本当に拓斗君は私に好きだと言ってくれているんだ。そして、彼女になって欲しいと。
……ちゃんと、私も答えなくちゃいけないということは分かっている。けれど、恐い。
「ありがとう。だけど……」
不安から素直に私の気持ちを伝えることは出来そうにない。本当の想いとは全然違う言葉が出てきてしまっている。
「……俺のこと、嫌いですか?」
ごめん、そう言おうといた私の言葉は拓斗君によって遮られてしまった。
嫌い?そんなことあるわけがない。首を横にゆっくりと何度も振った。
こんなにも真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれているのに、私だけ逃げるわけにはいかない。……不安なことを、彼に話そう。
「……恐いの」
「恐い?」
私の台詞が分からないというように、拓斗君は聞き返してくる。