【完】そろり、そろり、恋、そろり
お互いに冷静になってきたところで、ソファへと移動。


冷めてしまったお茶は麻里さんが淹れなおしてくれて、今度は気をつけて飲んでねと笑いながら言われてしまった。


さすがに俺だって学習くらいする。苦笑しながらも頷いて、飲める温度になった事を確認してから飲み干した。


そして、ふーっと大きく息を吐き、隣に座る麻里さんの方へと体を向きなおした。


「実は、一目惚れだったんですよ」


「……え?」


俺の言葉に、麻里さんは目を丸くして驚いている。


無理も無い、まさかこんな事を告げられるなんて思ってなかっただろうから。それでも、俺は伝えておきたかった。


「麻里さんのお店に行ったときです。覚えてないと思いますけど、あの時客だけじゃなくて、女性店員からもチラチラと俺たちに視線が送られていたんですよ。そんな中でも仕事に徹している姿と、あとは気遣いに、一目惚れしました」


じっと目を見つめながら話していると、麻里さんはきょろきょろと視線を泳がせている。こんなに落ち着かない麻里さんは新鮮で、なんだか楽しくなった。見ていると自然と頬が緩んでしまいそうで、意識して表情を引き締めた。


「強烈に惹かれたその日に再会して、奇跡だ!って1人喜んだんですよ。そして、思い切って声を掛けました。そうしたら、隣同士でしょ?もう運命だって思いました」


「……運命?」


そう、運命。心の中だけで復唱した。もしかしたら彼女に、何を言っているんだと思われたかもしれない。あっ……彷徨っていた視線と久しぶりに目があった。


「笑ってもいいですよ。いい歳をした男が何を言ってるんだって。笑われたって、俺はそう感じちゃったんですから」


「笑わないよ。運命か……そうかもしれないね」


山下さんたちの様な反応を予想していた俺は、彼女の答えに驚きを隠せなかった。それなのに、笑うどころか、彼女はうんうんと頷きながら納得している様子だ。


「……絶対に笑われると思っていました」


「そんなことしないよ。納得だなって思って。2年間も隣に住んでいて、一度も顔を合わせないっていうのも奇跡的だと思う。それなのに、一度出会ったらそこからは奇跡的に縁があって……運命って言葉がぴったり当てはまるかなって」


否定どころか肯定してくれて、じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。こういう感覚は努力して変わるものではないと分かっている。だから、受け入れて共感してくれる人に出会えたら、それはどんなに素晴らしいことだろうと考えていた。……こんなにも嬉しいとは思っていなかった。
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