【完】そろり、そろり、恋、そろり
素肌と素肌が触れ合う箇所が徐々に熱を帯びていく。拓斗君が熱いのか、私の身体が熱いのか、ピッタリとくっついた今では分からない。ひたすらに心地いいことだけは感じていた。


拓斗君は時々言葉で私の事を攻めたてながらも、丁寧に丁寧に触れて、そして私を翻弄していく。


彼とひとつになった頃にはもう理性なんてなくて、ただ彼だけを求めた。今までだって、心は彼のものだと思ってはいたけれど、今本当に一つになれた気がした。身も心も彼のもの。


熱い情事の後も、拓斗君は私から離れようとはせずに、疲労感からうとうととしている私をそっと抱きしめてくれている。時折、私の頭を優しく撫でながら。


とことん甘い雰囲気に、もちろん悪い気はしない。それどころか、安堵感が心を支配していく。行為の後なのに、こんなにも大事に扱ってくれる人は初めてなのかもしれない。


「……麻里さん、顔緩んでる」


くすくすと笑いながら、私の頬をツンツンと突いてくる。彼に答えたいけれど、瞼が重く、なかなか開いてくれない。だから、抱きしめてくれている彼にぴたりと寄り添った。


「寝ていいよ」


そんな私に彼はまた優しく声を掛けてくれる。


あー、今すっごく幸せだ。“幸せ”という言葉は、私の心にストンと落ちて、ぴったりと嵌った。


触れ合ったままの彼の存在に安心すると、重い瞼が完全に閉じてしまった。


ダメだ、もう眠ってしまいそう。


…・・・おやすみ。そう呟こうとしたところで、意識が途切れた。
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