【完】そろり、そろり、恋、そろり
黙々と食べ続けたあと、本来の目的である打ち合わせを始めた。
何か残る物がいいと、定番だけど映像を作ろうという事になった。披露宴では新郎新婦の学生時代の友人が出し物をするらしい。二次会は新郎新婦と同僚の俺たちに任せられた。
だから、学生時代の友人は知らない社会人になってから2人のことを紹介できたらと思う。幸い、新郎は部署は違うけど仲のいい職場の先輩だし、新婦に至っては俺たちと部署も同じ後輩にあたる。香坂となんて高校時代から知り合いらしい。
2人のなり染を詳しく知っているし、二次会にしか参加しない新婦友人のコメントも香坂を通じてお願いできるし、何とかなりそうだ。
誰が何を用意するとか細かい話も出来た。
当日までは忙しくなりそうだ。けれど、おめでたい忙しさ、楽しくなってくる。
――カランカラン
「ありがとうございました」
瀧本さんではない店員さんが頭を下げ、見送られた。誰が会計するか女性スタッフが揉めていたのが聞こえ、はーとため息が漏れた。彼女はその争いに参加もしていなかった。
久しぶりにこんなにも惹かれる相手が見つかったのに、全く脈なしって悲しいな、本当。
でも……うん、うまかった。この店が単純に気に入った。
女性客が多いのが難点だけど、また来たいなと思う。
……彼女と接点が欲しいという下心があるのも事実だけど。
今日は何も出来ないまま終わってしまったのは情けないけど、自分からどうやってアプローチしていけばいいのか分からないのだから仕方ない。
今までは相手からアプローチしてきてくれていたから。よくよく考えると、俺は恋愛初心者と言えるのかもしれない。……自分で考えて情けなくなる。