飴と道楽短編集
そう、怯えながら覚悟した時――
「――逃げろ」
彼が言った。
「……娘よ、早く私から逃げろ」
私は何故彼がそんな事を口にしたのか分からなかった。
「私は今衝動的になっている。今にも飛び掛かり、貴様の柔らかい肉を引き裂いてしまうだろう」
鋭い月の瞳が見据える。
「だから逃げろ、娘」
――私はそれこそ、目を丸くして固まった。
とそれも一瞬。
この奇妙で数奇な施しを請けない理由などない。