飴と道楽短編集
久美は私の名前だ。

確かに。


でも……


「え……?」


なんで、知ってるんだろう。



「は……はは、いやすみません。似ていたもので、つい」

お爺さんは照れ笑いをしながら顔を逸らした。


似てた?

久美さん、に?


「どなたに似てたんですか?」

思わず私は声を掛けていた。
勿論興味本意だが、同じ名前で似た顔と言うのは気になる。

お爺さんは私の食いつきに多少驚きながらも、ゆっくり微笑みを浮かべてくれた。


「いやはやお恥ずかしい……私の連れ合いにです」

連れ合い…奥さんって事かな?


「あ、私がじじいだからってお嬢さんがばばくさいという意味じゃないよ!」

お爺さんは慌てて面白い弁解をする。

「えぇ?どういう事なんですか?」

気になって更に聞いてみた。

お爺さんは頭をぽりぽり掻きながら…

「実は……お嬢さんくらいの若い時になぁ、二人で約束をしたんですわ……将来は一緒になろうと」

「へー…!」



「でも久美さ…そのひとは、病気で召されてしまって。だから似ていたお嬢さんに驚いたんですよ」


「そ…」

ちょっと……シリアスな話で私の方が驚いてしまった。


「それは……す、すみません、そんな話を……」


「いやいや」


お爺さんはそれでもやっぱり、笑顔を浮かべていた。



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