飴と道楽短編集
子ども達の声の合間を縫って、木の葉の揺れる音。
私は、どう返せば良いか分からなかった。
すると……
「どうかな?ロマンティックでしょう?」
お爺さんが穏やかに私を見てくれたので、私も穏やかに頷けた。
「お爺さん…ご結婚は?」
「しとらんよ。私は久美さんひとすじなもんで」
胸を張って言い切ったお爺さんは、なんだか頼れる人に見えた。
日が橙色に染まりかけ、子どもを迎えに母親達が集まり出す。
「おぉ、もうこんな時間ですか、すみませんなぁ引き止めてしまって…」
「いえっこちらこそ…」
私はペットボトルを鞄にしまい、お爺さんにお礼を言った。
「ロマンティックなお話、ありがとうございますっ」
この人はこんなに穏やかに……久美さんを待ち続けていたんだ。
とても凄い事だよね……
私とお爺さんは立ち上がる。
お爺さんはやっぱり、腰を上げるのもゆっくりで。
「あ、あの。私も久美って言うんです」
私の最後の自己紹介に、お爺さんはきょとんとした。
「ほうこれは奇遇な……」
「貴方の、お名前は?」
そして
風が 吹いた。