逆境の桜
私は黒谷金戒光明寺へ足を踏み入れると、数年ぶりの顔があった。
今も昔も変わらず綺麗だった。
「母上…...」
「桜....久しぶりね。」
そう言って笑った母には少し皺が目立っていた。
「久しぶり。兄さんの事は聞いたわ。」
「そぅ...。桜、噂で聞いたのだけれど薩長同盟を組んだのは....本当なの?」
「ええ。次は会津と組むつもり。」
「何言って....会津は佐幕派なのよ!?」
「分かってるわ。母上は知ってる?私ね、最後に兄さんに会った時....約束したんだ。」
「....約束....?」
「それは...会津と長州で同盟組むことなの。今それが実現できそうなの」
「....桜....頑張るのよ?」
「....うん...」
私が頑張らないと........
何も始まらない。
頑張らないと。
「桜....大丈夫?」
「?大丈夫よ。」
「貴女、ちゃんと休んでるの?やつれているように見えるけど....」
「休んでいるわよ!五日程何もしてなかったんだから!じゃあ母上、そろそろ行くね?」
「........松村殿....」
「....はい?」
「会津藩士の母と長州藩士の父をお持ちで?」
「えぇ....まぁ…」
「………複雑………………ですな…」
遠い目をして言う西郷に私は苦笑いしか返せなかった。