桐の花

嫁ぐ朝

「雛子さん、またぼんやりして…。風邪でもひいたら大変ですよ。」


片桐家の庭にある桐の木の下でぼんやりと立っている雛子を見つけて、祖母の菊枝はそう小言を言った。


この祖母の小言が聞けるのももう今日が最後だろう。明日はきっと朝早くから結婚式の準備に追われることになる。


「ごめんなさい。おばあさま。」


雛子は肩掛けをかけてくれた菊枝を見てふわりと笑った。


雛子は去年の十二月に十六歳になったばかり。


その細い肩を見て菊枝は胸が痛んだ。こんなに小さな肩に片桐家の将来という重い任務を背負わせてしまう罪悪感。


でもだからこそ、嫁ぎ先では幸せになって欲しい。


「向こうに言ったら真一さんに真心で尽くしなさい。そうしたらきっと真一さんにも可愛がっていただけますよ。それからお義父様と、お義母様を大切に。」