桐の花

次の日の早朝、笹川家からのお迎えが来た。


「菊枝様のお車はまた後ほど。」


笹川の秘書である木下が雛子を迎えに来た。雛子はまだ暗い庭を見やった。雛子が産まれた時に父が植えたという桐の木。雛子の父はいつも雛子がお嫁に行く時はあの木で桐箪笥を作って持たせると言っていた。


その約束をかなえることもなく逝った父。


それから雛子が幼い時に亡くなった母。


雛子はじっと目を閉じて父と母に話しかけた。


「お父様、お母様、雛子はいってまいります。どうかおばあさまのことを見守ってください。」


「雛子様？」


木下が雛子を促し、雛子は菊枝にこの家で最後の挨拶をした。


「それではおばあさま、今まで本当にありがとうございました…。」


たまらず涙がこぼれてくる。


「あらあら。雛子さん、今日はあなたの一番幸せな日になるんですよ。後から私も行きますから、綺麗な花嫁姿を見せてくださいね。」


菊枝はそう言って微笑んだ。