桐の花
木下は窓の外を眺める雛子を見ていた。真一が待っているという言葉がよほど嬉しかったのだろう。まだ少しだけ微笑みを浮かべている。


最初に真一が雛子と結婚すると言い出した時には冗談かと思った。


驚く木下に真一は、



「だって桐山家と婚姻関係を結べばうちにも箔がつくだろ。」


そうこともなげに言った。


「しかも向こうは破産寸前だ。人助けを兼ねた先行投資だよ。」


この屈託ない真一の笑顔に参ってしまう女は多い。


最初は木下も雛子は打算で真一と結婚することを承諾したと思った。


でも打ち合わせのため、雛子の家を訪れるうちに、雛子がまっさらな何の穢れも知らない少女であることを知り、おどおどした小動物のような雛子に兄のような感情を抱き始めていた。


真一が雛子を大事にしてくれればいいと思う。


きっと雛子は真一に何の疑いもなく嫁いでくるのだから。




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