だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「行こうか。今度ゆっくり話聞くよ」
そっけなく響くように言った。
過去に戻ってしまった森川の気持ちを、なるべく優しくこちらに連れ戻すように。
動こうとしない森川を見て、やっぱり疲れているのかなと思う。
肩をぽんぽんと叩いて入り口に向かおうとする。
「時雨」
真っ直ぐな声で呼ばれて、入り口で振り向いた。
給湯室にいる森川はいつも少し窮屈そうに見える。
私を見つめたまま、入り口までゆっくり歩いてくる。
そっと手を伸ばして私の頭に触れた。
柔らかい手つきで。
大きな手。
湊とも、圭都とも違う熱い手。
「悪いな、心配かけて。大丈夫だから」
ん、と小さく返事をして、私よりも先に給湯室を出て行く森川の背中を追いかけた。
仕事以外のことで森川が悩むのはとても珍しい。
ポーカーフェイスでどちらかというと何を考えているのかわからない、という印象の森川。
真面目で本当に大切なことしか口にしない。
弱い部分を見せてくれるまで時間がかかったのを思い出す。
いつも自分で考えて行動する森川を、ずっと前から尊敬していた。