だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「付き合ってからは八年かな。多分、十二歳の夏からだから」
「あぁ、石田君の時だったけ?」
そう、と言って目の前の綺麗なざくろ色のカクテルを流し込む。
甘酸っぱく炭酸の効いたそれは、名前とは裏腹に爽やかな味をしていた。
「ねぇ、湊さんと喧嘩したことある?」
優希は興味深そうに身を乗り出して聞いてきた。
カウンターに並んで座っているので、顔をかなり近づけて私の顔を覗き込んでいる。
その様子が小動物のようでとても可愛く見えた。
「ないよ」
「一度も?」
「うん」
間違ってはいないと想う。
自分の機嫌が悪くなる時もあれば、私が勝手に拗ねてしまうことなどは沢山あった。
けれど、お互いに喧嘩にしてしまうほど言い合いをしたことはない。
私の想う些細なことは、湊にとって大きな問題ではないように感じていた。
そのことが私に何も言えなくさせていた。
「そっか。それはいいことだと思うけど、言いたいこと言ってるの?」
言いたいこと。
湊に聞いてほしいこと、伝えたいことは山ほどある。
けれど遠慮していることの方が多いかもしれない。
それは私だけの問題ではなく、湊にとっても同じ問題なのだろう。
私が少し黙っていると優希は小さくため息をついた。
その音に反応して真っ直ぐ優希を見つめた。