だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「このまま此処に一人にする訳にいかないだろう?少し待ってて」
あからさまに声に怒りが滲んだ。
優希が後ろで息を飲むのが聴こえた。
そうか。
こんな湊を知っているのは私だけなんだと、そんなことに満足感を憶えながら。
「待たない。今すぐ話したい」
声も、手も、足も。
本当は震えていた。
こんなにはっきりと自分の気持ちを口にしたのは初めてで、こんな我が儘を言ったのも生まれて初めてだった。
本当の自分を曝け出して、それを傷つけられたら。
私はこのまま立っていられるのだろうか。
「時雨」
呼ばれた声に、身体の震えは増した。
その声は、私を拒絶する声。
こんな湊の声、知らない。
こんな湊の目、知らない。
こんな湊、知らない。
「ちゃんと一緒に帰る。だから、少しだけ待ってて。この子、上に連れて行くから」
違うよ。
離れて欲しいの。
他の人に触らないで。
私だけに触れて欲しいの。
わかってる。
こんな独占欲、間違ってることくらい。
でも、止まらないの。
目の当たりにしたら、止まらない。
助けてよ。