だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「なぁに、お兄ちゃんに対してヤキモチ?随分ブラコンな妹さんね」
真っ赤な顔をこちらに向けて、女の人が猫なで声で言った。
さっきまで他の音がしなかったはずなのに、その声だけが鮮明に私の頭の中に響いた。
やめて。
聴きたくない。
「・・・ブラコンじゃ、ないですから」
「まぁ、可愛い~。お兄ちゃんのこと大好きなのね~」
搾り出すような声で必死に応える。
その言葉にけらけらと笑う彼女を、見ないようにするだけで精一杯だった。
目に映してしまえば、きっと私は彼女を傷付けるだろう。
湊に絡む腕に。
湊に触れる手に。
嘲るようなその顔に。
強い力で爪を立ててしまうだろう。
「こんな可愛い妹さんにヤキモチ妬かれるなんて。湊く~ん、どうやったら妹ちゃん、認めてくれるかなぁ?」
どうしていいか、わからない。
優希がそっと私の腕を掴んだ。
その力がとても強くて、なんとか正気を保てていたような気がする。
私は、今までにない程の激しい感情を持て余していた。
「ね、湊君。上に戻ろう。もう大分すっきりしたから」
そう言って、湊の腕を引いてエレベーターへ向かった。
足取りもしっかりとしていて、そんなに酔っているようになんて見えなかった。
嘘つき。