だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「そういうこと。鞄、上に置いたままだし一緒に戻ろう。戻らないとカズがうるさいだろうし。鞄持ったら、僕はそのまま帰るから」
そう言ってもう一度私の身体に力を込めた後、湊はそっと手を離した。
下を向いたまま、小さく頷く。
女の人の顔は見ることが出来なかった。
湊が彼女に触れず、促すだけでエレベーターに乗り込んだのが見えた。
そっと近付いてきた優希に顔を上げて応える。
支えてくれる手が、とても温かかった。
「あんな湊さん、初めて見たよ」
そっか、と小さく呟く。
知っている湊。
初めての湊。
私にとっても。
「本当に安心したよ。やっぱり、大事にされてるんだね」
優希はにっこりと笑っていた。
私も、それにつられて笑顔になった。
きっと、湊はまだ不機嫌なままだと思う。
それでも。
私が大切だと、湊の腕が教えてくれた。
「やっぱり、羨ましいよ」
優希はそう言った。
私は、そうかもしれないけど大変なんだよ、と思って困った笑顔になった。
やっぱり今日は言いたいことを言わなくては。
湊にわかって欲しいし、湊のことをもっとわかりたい。
そのために必要なことなのだろう、と想ったから。