だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
戻ってきた湊はまだ不機嫌な空気を纏っていた。
優希は充君が迎えに来てくれるとの事だったので、ビルの前で別れた。
無言のままタクシーに乗って走り出す。
触れられない手も。
何も言わない口も。
こちらを向かない目も。
全てが私を苦しくさせた。
家に着いて、湊が玄関のドアを開ける。
何も言わずにリビングに入っていく背中を、ブーツを脱ぎながら目で追った。
少し遅れてリビングに入っても、湊は目も合わせてくれなかった。
奥の洗面台で手を洗う音が聴こえたので、私はキッチンで手を洗った。
いつもなら追いかけられる背中も、拒絶の空気が苦しくて近付くことさえ出来なかった。
思えば、湊は何に怒っているのだろう。
それの見当すらつかないのに、話が出来るのだろうか。
自分にも非があることを湊がわかっていないわけがない。
女の人と二人で、それも手を添えて、なんて。
それに私が傷付かないわけがない、と知っているのに。
一人で頭を悩ませていると、そそくさとリビングから出て行く背中が見えた。
私の横を素通りして。
何も言ってくれない横顔が、知らない人のように見えた。