だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「遅かったね」
びくりと身体が震えた。
いや、怯えた。
目の前の人物が発した低い声が、私に突き刺さる。
「湊・・・」
私が名前を呼んでも湊の表情は全く変わらなかった。
目の奥から感情が滲む。
大人の男の人の顔。
目が合うと有無を言わせず私を抱き上げた。
私は少しだけ抗ったが、そんなものは湊の力の前では無意味だった。
なんだか怖くなって声も出せず、でも湊にしがみつくことも出来ずにいた。
一歩一歩階段を上る振動と、いつもより少し早い湊の鼓動ばかりが私に響いた。
湊の部屋に入る時、湊が私を抱く手に力を込めた。
その力に胸の奥が苦しくなった。
何の言葉も発しないまま、ドアの鍵が閉まる音だけがした。
私は抱えられたまま湊がベッドに座る。
湊の膝の上で身動きが取れず顔を下に向けたままでいた。
そんな中で湊が窓に目を向ける。
それに合わせて、私も窓の外へ視線を上げた。
窓の外では、明るい藍色の空と街灯が反射してオレンジ色をした雪が舞っていた。
静かに落ちてくるその雪が、とても幻想的だった。