だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「俺の幸せを、勝手に決めるなよ」
私を抱き締めたまま、圭都はそっと言った。
窓に映る私達は、少し曇ったガラスのせいで一つの影になって見えた。
会社にいるのにこんなに近付いていることが、なんだか私を後ろめたい気持ちにさせた。
表情の見えない圭都の顔を、今は真っ直ぐに見つめる自信がない。
後ろから抱き締められているこの感覚だけが、今の圭都を感じられるものだった。
「俺にとって何が一番良いことか。そんなことは、俺にだって分からない」
廊下の電気と窓の外のネオンが、今私達の周りにある唯一の光だった。
社内にはもう誰もいないだろう。
静まり返ったこの場所が、いつも慌ただしく仕事をしている場所と同じだとは思えなかった。
「ただ、今したいと想ったことが、これから先に繋がればいいと想ってる」
柔らかい声が響く。
湊を想い出してしまったせいか私の思考回路はとても鈍っていて、圭都のその言葉を受け止めることで精一杯だった。
受け止めた言葉を頭の中で何度も反芻する。
圭都が想うことを、少しでも理解したいと想った。
「湊を想い出して、お前が俺の傍で悩んでいることは。確かに苦しくて、どうしようもないかもしれない。でも、後から『そんなこともあった』と。それを一緒に笑えれば、それでいい」