だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
がばりとタオルをめくりあげると、圭都は顔を逸らして必死に隠そうとしていた。
力任せにしても無駄なことはわかっていたので、そっと声をかける。
「こっち向いて」
声も出さずに首を振るばかりの圭都から、少し離れたままでもう一度告げる。
「圭都、お願い。顔が見たいよ」
懇願するように呼びかける。
この声が圭都を振り向かすのに必要なのだと、どこかで知っていた。
圭都は左手で自分の頬に一度触れ、それでも首を振る。
強情なのは知っていたけれど、ここまでとは。
そっと手を伸ばしその左手に触れる。
びくりと震えたけれど、そのままでいてくれた。
「圭都」
この人の名前が、こんなにもいとしくなるなんて想わなかった。
口にするたびに涙が込み上がるけれど、ぐっと堪える。
今泣いてはダメ、そう言い聞かせた。
私の手を握り返してそっとこちらを向いた。
握られた手は濡れていて、それが雨ではないことを私は知っていた。
下を向いたまま固まっている。
掴まれている右手をそのまま、自分の左手をそっと頬に伸ばす。
やっと観念したのか、私が顔を上げるように促すと目を合わせてくれた。