だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
そう言って私を抱える腕の力を強くした。
今が苦しくても後から一緒に笑えればいい、と。
そう言ってくれた圭都に、感謝の気持ちでいっぱいだった。
そして、とても圭都らしい考え方だと想った。
圭都の信条は『過去の自分は、今の自分のために絶対に必要なもの』なのだ。
それをずっと大切にしてきた人。
その人が本当にその信条を大切にしていたのを、一番近くで見てきたのだから私はよく知っていた。
それでも、不安は拭えなかった。
「これから先、もっと辛いことが待っているとしても?」
小さく呟く。
言った言葉は不安に溢れているのに、圭都の腕の中はそんな不安さえも溶かしてしまいそうだった。
腕の中で違う人を想い出してしまうのに。
同じような感触で私に触れ、それが別人であると気付かされる。
此処に『今、生きている』と教えてくれる人。
この腕の強さが、湊の感覚を消していくのに気付いていた。
湊の感覚が薄れていく度に罪悪感と安心感が交差する。
湊のことを忘れたくない自分と、圭都の腕の中から離れられない自分が、どうしようもなく狡い存在に思えた。
「いいさ」
「もっと幸せなことが待っているかもしれないんだよ?」
何が一番幸せなことなのか。
わかりもしない私が、言うことではないかもしれないけれど。
聞かずにはいられなかった。