だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「なぁ」
後ろから抱き締める圭都の声が、少しだけ緊張を帯びていた。
こんなにあからさまに声に感情が滲むなんて、よほど言いづらいことなのかもしれない。
私は後ろを振り返ろうとしたが、私を抱き締めている腕の力がとても強くて、動くことが出来なかった。
「何?」
諦めて声だけで答える。
出来る限り優しさを含ませた声で。
「一緒に暮らさないか?」
小さな声が耳元で震えていた。
私に触れる手が、熱を失ったように冷たい。
圭都の声を理解するのは簡単で、私はその言葉を胸に落とすことが出来た。
けれど、返事をすることが出来ずに固まってしまった。
目の前の光がチカチカと目に映る。
この狭いミーティングルームには、時計の針の音と自分の心臓の音が響いている。
「ずっと考えてた。俺の家は、部屋も余ってるしな」
「でも・・・」
「付き合った期間とか、そういうのじゃなくて。一緒にいたいかどうかで決めてくれ」
「・・・狡い、そんな聞き方・・・」
「なんとでも言え。一緒に暮らそう、時雨」
『一緒にいたいかどうか』
なんて狡い質問の仕方をするのだろう。
そんな選択肢を与えられて、私がどちらを選ぶか分からないような人じゃないのに。