だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「なぁ」




後ろから抱き締める圭都の声が、少しだけ緊張を帯びていた。

こんなにあからさまに声に感情が滲むなんて、よほど言いづらいことなのかもしれない。


私は後ろを振り返ろうとしたが、私を抱き締めている腕の力がとても強くて、動くことが出来なかった。




「何?」




諦めて声だけで答える。

出来る限り優しさを含ませた声で。




「一緒に暮らさないか?」




小さな声が耳元で震えていた。

私に触れる手が、熱を失ったように冷たい。


圭都の声を理解するのは簡単で、私はその言葉を胸に落とすことが出来た。



けれど、返事をすることが出来ずに固まってしまった。


目の前の光がチカチカと目に映る。

この狭いミーティングルームには、時計の針の音と自分の心臓の音が響いている。




「ずっと考えてた。俺の家は、部屋も余ってるしな」


「でも・・・」


「付き合った期間とか、そういうのじゃなくて。一緒にいたいかどうかで決めてくれ」


「・・・狡い、そんな聞き方・・・」


「なんとでも言え。一緒に暮らそう、時雨」




『一緒にいたいかどうか』

なんて狡い質問の仕方をするのだろう。


そんな選択肢を与えられて、私がどちらを選ぶか分からないような人じゃないのに。




< 142 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop