だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「泣き顔くらい、見せてください」
涙の跡と瞳の中に溜まる雫。
色素の薄い目がその涙の中で揺れている。
私を映したまま、その涙がそっと頬を伝った。
「あんまり見るなよ」
目を合わせたまま、少し拗ねたように言葉を放つ。
その姿が今まで見たことのないくらい可愛い顔をしていた。
ポーカーフェイスなんてもう呼べないな、と想った。
「何で泣いてるのか、わかんねぇよ」
どうしようもないんだ、と言い訳をするように言った。
その言葉になぜだか私も泣けてきて、おでこを合わせるように顔を寄せる。
下を向くと車のシートばかりが目に映る。
そっと落ちた涙が、どちらのものかわからないほど近くにあった。
「気持ちがいっぱいになると、涙がでます」
「・・・」
「私は、ですけど」
「・・・そうか」
「そうなんです。だから、どうしていいか分からない気持ちになりますよ」
それ以上、何も言えなかった。
けれど、それ以上何かを言う必要もなかった。
初めて弱さを見せてくれたこの人が、とてもいとしかったから。