だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
杉本さんの一件があったあの日、家に帰ってから圭都はソファーで一人、考え込んでいた。
ベランダに出てタバコを吸うこともせず、じっと腕組みをしてビールを飲んでいた。
私は食事の後片付けをしながら、カウンターキッチン越しにその姿を見ていた。
圭都の家のキッチンにも馴染んできたな、と思いながら。
すっと立ち上がってベランダへ出る。
その後ろ姿がいつもと違う気がして、私はストールを羽織ってその背中を追いかけた。
圭都の背中を見るのは久しぶりだった。
私が圭都の背中を見ると切なくなることを、この人はよく知っている。
隣に肩を並べることが安心出来ることだと教えてくれたのは、紛れもなくこの人だ。
それも知って欲しいなと想った。
ベランダ用のスリッパを履いて手すりにもたれているその背中は、線の細い綺麗なカタチをしている。
服の上からは、見た目よりも逞しいその身体がわからない。
触れて近付かなければ。
その腕の強さを知らずにいたのだろう。
何かを抱えているその背中は、心なしか不安げだった。
窓を開けると圭都がそっと振り向く。
不思議そうな顔をしたその人に、そっと笑ってみせる。
窓を閉めて隣に立って、二人でそっと冬の空を見上げた。