だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「でもそれは、自分の心が無くなったんだってわかった。奥底に閉じ込めて、何にも反応しないように」
苦しさから逃げるための手段として。
一番楽で、一番してはいけない方法をとっただけだった。
「でも、圭都には正常に働くみたい。私の心」
たばこを吸い込んで残りは灰皿に押し付けた。
それと同時に圭都もたばこを消した。
たばこを消した後、顔を上げると二人の距離はとても近かった。
「それは、喜ばしいことだな」
圭都は少し意地の悪い顔をして私の頭をぐい、と引き寄せた。
軽く触れるだけの唇は、同じタバコの匂いがした。
ストールが肩からぱさりと落ちて、それを圭都が拾ってくれる。
それを私にそっと掛けて後ろから腕を回してきた。
抱えられるようにされた身体は、冷えた二人が一緒に温まれる距離だった。
「たまには言えよ、そういうこと」
「言わない。喜ばせるのは悔しいから」
くすくすと笑いながらベランダで抱き合った。
三月末までにはこの家の住人になる。
どれだけ一緒にいられるかわからないけれど、温かいこの場所を大切にしたいと想った。