だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
感情...カンジョウ
「それで、引越しはいつに決めたの?」
食後に少しだけゆっくりと紅茶を飲みながら、水鳥さんはそっと言った。
熱いお湯で入れた紅茶は、ティーパックではあるがとてもいい香りがしていた。
「とりあえず必要なものだけ今週の土曜日に運び出す予定です。その後にゆっくり片付けとかしようと思っているんです」
「あら、もうそんなに話が進んでるのね。櫻井君ってば、せっかちなんだから」
水鳥さんはそう言って、少し意地悪そうな顔をして笑っていた。
確かに『少しでも早い方がいい』と言ったのは圭都だった。
けれど、そうしたい、と想ったのは私の方だったのかもしれない。
紅茶はとても熱くて、ゆっくりとしか口をつけることが出来ない。
パソコンに向かい午後からの仕事の画面を立ち上げたまま、残りわずかな休憩を水鳥さんと過ごしていた。
「ご家族には?」
その言葉を聴いてカップを持っている手に力が入る。
カップの熱に驚いて、慌てて机の上にカップを置く。
動揺したのを容易に見抜かれ、私はそっと水鳥さんを見つめた。
心配そうなその目に向かって、私は小さく首を横に振った。